ヒットマンズ・レクイエム Page 5

       「ヒットマンズ レクイエム」のトリビア


     元ネタ考察


 「ヒットマンズ・レクイエム」は
ハロルド・ピンターの舞台作品
Dumb Waiter
(1957年作)に
最初の構想を得たと思われます。

 Dumb Waiter」は「ヒットマンズ
レクイエム」の設定と同じく、中年と
若いヒットマンが、一室で仕事の指示
を待つ短編です


「ダム・ウェイター」
とは食器用小型
エレベーターのことで、このボックスを
通して仕事の指令が来るという舞台設定
になっています。

 

二人のヒットマンの延々と続く、かみ合
わない会話や、二人の待っていた指令が、
結局はパートナーを殺すというものだった
部分などが「ダム・ウェイター」を彷彿と
させます。

 

 さて「Dumb Waiter」は、中年の方のヒットマン
が若いヒットマンを殺さなければならないとわかる
場面で終わっています。



 マクドナー
監督は「結局、中年のヒットマン
はパートナーを殺せなかった」と解釈して
続きの物語を想像したようです。

 

  ハロルド・ピンターは映画脚本家として
 も知られ、代表作に

「召使い(1963年)
「フランス軍中尉の女(1981)」
「日の名残り(1993年)」などがあります。

  なお、ピンターは2005年にノーベル賞
 文学賞を受賞
しています。













        映画で登場する絵たち



主人公の二人がブルージェの博物館で見る印象的な
絵が2つあります。




一つはヒエロニムス・ボッシュで、
イギリス映像ファンならすぐモンティー
パイソンを思い出すかもしれませんね。

 この映画で登場する「最後の審判
(写真上↑)は、ウィーンに貯蔵されて
いるものとは別物で、ブルージェの
グルーニング美術館
にあるほうの
祭壇画です。

 地獄絵のようなこの絵を見て、主人公の
罪の意識が高まるシーンで使われています。


 この映画の中では、劇中映画のラスト
シーン撮影と「ヒットマンズレクイエム」
自身のラストシーンがかぶるようになって
います。

 ラストシーンでは、撮影中のキャストが皆、
この「最後の審判」のコスチュームを着ており
主人公にとって現実の「地獄」であった
ブルージェに幻想の地獄が紛れ込んでくると
いうシーンで印象的に再登場するという趣向。

     

  

気になるのはもう一枚のほう。 




     ゲラルト・ダヴィト


(ジェラルト又はヘラルト・ダヴィト)
「カムビセスの裁判」(画像上↑)

 これは二対の祭壇画で、対になっている
右側の絵が劇中で登場する「シサムネス皮剥
死刑の図」
です。映画でも、この絵のグロテ
スクさに主人公が顔をしかめる場面があります
が、この絵の背景には印象的なエピソードが
ありました。

 

この絵はゲラルト・ダビットがブルージェ
の市議会から1498年に依頼され制作

したもので、6世紀に起こったペルシャ人
王カンビュセス2世が行った裁判の様子

を描いています。

 

一枚目は不正を行っていた裁判官シサムネス
が裁かれるシーン
、(中央、椅子に座っている
赤いケープを着た男性がその人)

 二枚目はその処刑シーンという構成ですが、

 「不正を行った公の権力者は厳しい裁きを
受ける」という教訓をブルージェの行政官に
与えるために依頼制作されたものだったため、
実際に事件が起こった6世紀の服装でなく
当時の15世紀の服装で
現代的に描かれている、
らしいですね。


 この絵は、他の地獄絵と同じく、見る者を
怖がらせるために制作されたことから、意識
的にリアリスティックに、よりグロテスクに
描かれているそうです。

 

(以下、内容にかなりグロテスクな内容が
あります。)




祭壇画の2枚目のクローズアップ:




 カンビュセス王のシサムネス裁判と死刑には詳細な
記録があり、ギリシャの歴史家Herodotusによると
当時も15世紀も皮はぎの刑というのは珍しくなく、

(そのため絵にも専門の皮はぎ職人が4人も登場して
いる)

この悪事を働いていた裁判官シサムネスは、まず喉を裂
かれて死刑にされ、その後皮を剥がれた。

(せめてもの救いです。)


苦痛の表情が残っていることから死刑の痛み
も伝わるようになっているらしい。

 

しかし歴史家Herodotusも指摘しているよう
ここからがこの話の異常なところ

 なんとカンビュセス王は、この皮で裁判官の椅子
を作ったというのです。

 絵にもその皮で椅子を作ろうと皮の到着を待っ
ている職人と椅子の様子が描かれています。
(右上部分。)

 さらにグロテスクなことに、王は後任の裁判官に
なんとシサムネスの息子を選んだのです。

 息子が裁判官に任命される際、王から「判決を
下す時、父親に起こったことが汝にも起こらない
ように思い出せ」と言い渡されたという記述が残っ
ています。

 

映画の筋には直接関係はありませんが、むしろ
マクダノー監督の非常にダークな作風は、この
ような暗黒的ヨーロッパ背景からきているの
ではと示唆する重要な一枚であると思いました。

 

なお、映画ではこのシーンに主人公の背景に
頭がない人物の絵画が写りますが、マクダノー
監督の作品の中にも頭が飛ぶというシーンが
モチーフ的に登場します。

 

 

マクダノー作品でそのようなシーンがある
たびに、かなりショッキングな表現方法だと
思っていましたが、ヨーロッパ的には常識範
囲内だったりするのかも?とこの絵をみて
少し納得しました。

 

そういった意味でグルーニング美術館
は、かなりパンチの利いた美術館らしい
ので、勇気のある方は一度挑戦してみる
のもいいかもしれません。




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